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ついに帰ってきた〈黒いアテナ〉───その思想史的地殻変動

◉再開「地下大学」への招待
「徹底討議 地下の中東」
4月講義@素人の乱12号店
4月28日 19時から
資料代500円+投げ銭

佐々木中さんへの手紙───エッセイ風の導入として
平井玄

私が佐々木中さんの言葉に初めて触れたのは、酒井隆史くんたちのVOL Collectiveによる『lexicon』(2009年、以文社)として編まれたキーワード集の中で、「フーコーとイラン革命」について書かれた項目でした。

他のメンバーたちのほとんどは街頭や研究会で顔を合わせている人たちばかり。ところがこの見知らぬ人物は、「現代思想系」とまるでひとつのマーケットのように呼び倣わされる場所ではまず語られることのない「イスラーム」について書いている。しかもその言葉は、短いながら極めて印象深いある種の「くぐもり」と「翳り」を濃厚に帯びていました。

フーコーが1980年に書いた「イラン・イスラーム革命」への詩的な讃美ともとれる論考が生涯の汚点のように語られてしまう。さらに末期の病床で「ヨーロッパ」に回帰し「自己への配慮」というギリシア的な境地に到達したとされる。そうした教科書的な語り方への激しい苛立ちが文面に沸き立っている。加えて「イスラーム」や「宗教」への何か独特の視線。「革命」という言葉がまるで漆黒の夜空に瞬くような文章でした。確かに、今やそうした哲学者たちの幾人かはそれこそ高校「倫理」のテクストで取り上げられている。VOLのグロサリー(用語集)そのものがそうした安全化への抵抗に違いないでしょう。その中でも、関節が外れたような独異なリズムを持つ矢部史郎のそれとは別の意味ではっきりと記憶に残っている。ページから弾け出るような不穏を秘めた文章でした。

「これを書いたのは誰だ?」
それより前の2008年に出版されていた『夜戦と永遠』を手にしたのはこのもう少し後です。そして未だに読み続けている。簡単には消化しない。消化などできない異物というべきです。そういう遠くから鈍く響きわたるものへの愛好が間違いなく私にはある。

そのうちに『切りとれ、あの祈る手を』(河出書房新社、2010年)が現れる。それらに読み耽り、また訥々と読み留まるうちに、「これは啓典の語りに似ているな」という思いを抱きました。モーセ五書をはじめ中央アジアから東地中海域にかけての宏大な空間から蝟集してきた「旧約」と名づけられた古叢書群、ナザレからやって来た私生児イエスの言行録の数々、そしてメッカに生まれメッカと対立したムハンマドの「クルアーン」として読み謳われる啓示集。そのハードボイルドな語りに似た口吻が聴き取れる。預言者たちを私たちの元に引き寄せるために「ハードボイルド」という言い方を敢えて選びましょう。

それらは「宗教」ではない。死地に直面した人々を励起させる言葉の群がりというべきです。そして人間の歴史に大きな「信」を問いかける言葉はいつも底深い「静けさ」を湛えている。その意味でそれは「革・命」の言葉なのです。生きようとする者たちの命を革める、天地と人との盟約を大きく革める言葉。「革命」という言葉の解釈権をマルクスの後継者たちが独占していた20世紀は無惨な形で終わったというべきでしょう。しかしそれは広告のレトリックではない。全世界で多くの者たちがその実現に生涯のすべてを賭けたこの言葉を、より宏大な人類史の中で再定義すべき時が来ているのは間違いないのです。

この著者は、そうした「革命」の思想史の一端として「現代思想」なる奇妙な名を冠された哲学者たちの仕事を読み継ごうとしている。だからラカンの破綻を、ルジャンドルの疎隔を、フーコーの蹉跌を大胆に語ることになるのでしょう。ドゥルーズ/ガタリが歩んだ屈曲の理路もその視野に入ってくる。そうである以上、読み解きの視野はフランスや西欧世界に留まるものではない。まさにこの点に、この帝都の最も猥雑なる街のひとつでそれと知らずにアジア諸民族の混濁の中で生きた、たった半径1キロの視野しかない私のような人間がゆっくりと反応したのです。

───今「事態」は私たちの前にある。遠くマグレブからマシュリクへと響きわたっていく「タハリール!」(解放)の轟き、さらに私たちを呑み込もうとしている地塊の震えと原子の狂乱、このふたつの波動が交錯する場所で私たちは暮らしているのです。大群衆の広場から、汚染された村から「言葉」の気配が伝わってくる。「文学」が必要とされる秋(とき)が来ている。こうした「事態」の中で共に語り合いたいと思っています。                            
                          
(2011年4月23日)


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